車両管理規程の見直しは定期的に

 業務上会社の車両を運転する必要のある企業は、車両管理規程を制定していることがほとんどです。車両管理を円滑に進めるうえで重要なものですが、定期的に見直しはされていますか。202312月より「アルコール検知器による酒気帯びの確認義務化」が始まり、今が車両管理規程を見直す良い機会です。今回は車両管理規程の見直しにおけるポイントなどをお話します。

 

【車両管理規程とは】

 車両管理規程とは、企業が従業員に対して業務中に使用する車両に関するルールを定めるものです。緑ナンバーの車だけでなく、営業や配送、送迎など、業務のさまざまな場面や目的で使用される白ナンバーの車にも適用されます。

車両管理規程は以下2つの法律を根拠に制定されるため、企業のリスク回避にも繋がります。また、社用車の利用に関するルールを定めて従業員に周知させておくことで、従業員の安全意識を高め、従業員を守ることにも繋がります。
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1:民法第715条「使用者等の責任」

 使用者等の責任とは、企業が雇用した従業員の業務中の不法行為により第三者に損害を与えた場合、雇用主がその損害賠償責任を負うというものです。使用者等の責任は、社用車の運転中の事故にも適用されます。

例えば、従業員が業務で車を運転中に急なハンドル操作で歩行者に接触し、ケガをさせてしまった場合、従業員だけでなく企業も損害賠償責任を負うことになります。

 しかし、車両管理規程を定めておけば、万が一事故が発生した場合でも従業員に対して安全運転の重要性を啓発していたことが認められ、使用者責任の発生を回避することも可能です。企業は日常的に従業員に対して安全運転の意識を高めるための教育や訓練を行い、また車両管理規程を制定して、適切な車両管理を実施することが求められます。
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2:道路交通法第74条の3「安全運転管理者の選任」

 道路交通法における「安全運転管理者の選任」とは、交通の安全と円滑な流れ、および道路に関わる障害の予防を目的として設けられた制度です。安全運転管理者は従業員が道路交通法を遵守し、安全な運転を行うための責任者です。5台以上の自動車を(乗車定員11名以上の場合は1台以上)業務で使用する場合、事業者は安全運転管理者を選任しなければなりません。

 このように、一定台数以上の社用車を所有している場合には安全運転管理者を選任し、従業員の安全運転を確保する責任があります。車両管理規程は安全運転管理者の業務を含めた明確な運用ルールを定めます。車両管理規程を策定することによって、従業員ごとの解釈の差異が生じることを防ぎ、「知らなかった」という事態を回避できるからです。
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【アルコールチェック義務化に伴い追加すべき項目】

 2312_2_4.pngアルコール検知器によるアルコールチェック義務化に伴い、車両管理者の皆さんは社内での管理体制を整えられたかと思います。ですがそれで終わりではありません。管理体制を整えた後は、従業員が業務中に使用する車両に関するルールである車両管理規程を改定する必要があります。

構築されたアルコールチェックの管理体制について「いつ・誰が・誰に対して・どのように」実施するのかを車両管理規程に追加しましょう。また、従業員が飲酒運転を犯した場合やアルコールチェックを拒否した場合に備えて、車両管理規程だけでなく就業規則や懲戒規程なども併せて見直し、整備しておくことで乗務時のアルコールチェックの実施を担保できます。

 

【見直しのポイント】

 車両管理規程を見直すにあたり、車両管理規程に記載しておきたい項目をポイントとして挙げます。全てを入れる必要はなく、項目の中から必要なものを記載するようにしましょう。

 

1:車両管理責任者の明示

2312_2_5.png 実際に運行する使用部署とは別に、車両を適切に管理するための車両管理責任者や管理部門を決める必要があります。一般的には総務部や管理部門が管理するケースが多いです。

 

2:安全運転管理者の選任

2312_2_6.png 道路交通法により、企業が一定台数以上の自動車を保有する場合には安全運転管理者を置く必要があります。管理者を選任した場合、15日以内に公安委員会へ届け出が必要です。届出を怠ると罰金が科せられるので注意が必要です。

 

3:車両管理台帳の作成

2312_2_7.png 車両管理台帳には型式や登録番号、車名、車種などを記載します。さらに、車検点検日などの情報、保険の有効期限や内容をも追加すると、車両の状況を正確に把握することができます。

 

4:運転者台帳の作成

2312_2_14.png 運転者台帳は、社内規定に基づいて運転の許可を得た運転者の情報を管理します。運転者台帳を作成し、車両管理台帳と連携させることで交通事故発生時などに適切な対応ができるようになります。また、企業が管理責任を果たしているかどうかを主張するためにも重要です。

 

5:車両の点検・整備

2312_2_8.png 社用車の保守点検および整備は、運転者の安全と事故予防のために重要です。定期的な車検・定期点検・日常点検を徹底することで、車両の状態をチェックし、事故・故障を未然に防ぐことができます。

6:社用車の私的使用禁止

2312_2_9.png 企業には民法第715条による「使用者等の責任」があるため、原則として社用車の業務以外で使用は禁止した方がよいでしょう。ただし、やむを得ず使用する場合は、許可書の提出を求めるなどのルールを策定し、車両管理規程に記載しておきましょう。私的使用禁止のルールを明確にすることで、社有車の適切な利用を促します。

 

7:マイカーの業務使用

 一般的にマイカー使用を禁止する企業が多いですが、これは業務と私用の区別が難しくなり、事故が起きた場合に会社も損害賠償責任を負う可能性があるためです。しかし最近では、社用車に乗り換えるための出社が不要、保有台数の削減などのメリットを選択してマイカー利用をする企業もあるようです。ただし、明確な規定や対策を設けないままマイカーを通勤や業務利用をすると有事の際には会社の責任が多くなるため、明確に規程内で定める必要があります。

 

8:事故時の対応

2312_2_10.png 事故が発生した場合には適切な対応が求められます。事故報告や処理、責任の所在についての規程を定めて記載しておくと良いでしょう。

 

9:加入する保険の条件

2312_2_11.png 自賠責保険の加入、任意保険の加入条件についても記載しておくと、万が一のときにもスムーズに処理できます。

 

10:安全運転の確保や安全教育の実施

2312_2_12.png 安全運転を確保するには運転者にその重要性を理解させる必要があります。運転者が守るべきモラル事項をしっかり定め、安全教育実施ルールを定めることで職場の安全意識も高めることができます。

 

11:車両管理規程に反した場合の罰則

2312_2_13.png 定めた車両管理規程に従業員が違反した場合の罰則についても記載が必要です。この時注意したいのが、「企業が従業員に対して罰金を科すこと」は労働基準法違反となる点です。ただし、車両管理規程や就業規則にあらかじめ明示し、会社の秩序を維持する目的であれば、労働基準法第91条の範囲内で罰則について言及することは可能です。

 この場合「罰金として徴収する」のではなく、「厳重注意や減給、降格することがある」という記載がベターでしょう。

 

 

【最後に】

 車両管理規程を自社内だけで見直すのは大変な作業です。そんな時は車両管理業務のアウトソーシングをご検討されてはいかがでしょうか。
 専門家によるコンサルティングを受けることでコンプライアンスは元より、企業方針に沿った形で車両管理規程の見直しが行えます。
 弊社でもカーマネジメントサービスとして、コンプライアンス視点での問題抽出や改善をご提案するコンサルティングを始め、車両台帳管理や付随する各種車両管理業務の運用を請け負うアウトソーシングサービスまで提供しています。車両管理規程の見直しももちろん承っておりますので、お困りの際はぜひご相談ください。

弊社への相談はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。