自動運転化により加速する法改正!

 2019年5月に改正道路運送車両法および改正道路交通法が可決、成立しました。今回の改正の大きなポイントは自動運転車の普及を想定した内容が盛り込まれている点です。自動ブレーキシステムの新車搭載義務化など、「自動化」が加速するこれからの自動車社会に向けた法整備の第一歩と言えます。そこで今回は、自動運転化に関連した法改正についてお話したいと思います。

改正道路運送車両法のポイント

 道路運送車両法は、自動車の構造や装置、保安基準、整備管理、車検などに関して規定されています。しかし、自動ブレーキなどの先進技術搭載車の普及、通信を活用したソフトウエアの更新による性能変更が可能になっている現状と、自動運転車の実用化・普及に合わせた改正を行う必要がありました。そこで今回、自動運転車の設計・製造過程から使用過程に至るまで、安全性を確保するための制度を整えるために大きく4つの改正を行うこととしています。

1:保安基準対象装置への自動運行装置の追加

保安基準への追加

 保安基準とは、車の構造や装置に係る安全確保・環境保全上の技術基準の事を指します。全ての公道を走る車はこの保安基準に適合する必要があり、点検、車検、整備も保安基準に照らして実施されます。
 今回の改正では、これまで定められていなかった自動運行装置が、保安基準の対象装置として下記の通り追加されることになりました。

プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な装置であって、当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件で使用される場合において、自動車を運行する者の認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有する装置・作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を含む
2:自動車の電子的な検査に必要な技術情報の管理に関する事務を行わせる法人の整備

 自動車の電子的な検査の導入に伴い、当該検査に必要な技術情報の管理に関する事務を実施する機関について決定する必要がありました。今回の法改正にあたり、上記の事務については独立行政法人自動車技術総合機構にて実施されることになりました。

3:分解整備の範囲の拡大及び点検整備に必要な技術情報の提供の義務付け

 自動車整備工場等、事業として車の「分解整備」を実施するには、地方運輸局長の認証が必要になります。今回この「分解整備」の範囲について、自動運行装置等の先進技術に関する整備等までに拡大します。これに伴い名称が「特定整備」へ変更され、自動車メーカー等には点検整備に必要な技術情報を事業者に提供することが義務付けられます。

特定整備の設定

4:自動運行装置等に組み込まれたプログラムの改変による改造等に係る許可制度の創設

 自動運行装置やその他の装置に組み込まれた重要なプログラムの改変を通信回線で実施することを許可制とし、予め許可を受けなければならないとしています。

自動運転のソフト更新

改正道路交通法のポイント

 道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑、道路交通による障害の防止を目的した、基本的交通ルールと言えるのが道路交通法です。自動運転車が公道を走ることになった場合のルール作りは、実用化になくてはならないものです。
 そこで今回の改正では、大きく4つの内容が盛り込まれました。

1:自動運行装置の定義等に関する規定の整備

自動運転の定義

 自動車を運行する者の運行に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する自動運転システムを自動運行装置として新たに定義し、同装置を使用して自動車を用いる行為は法上の運転に含まれる旨を規定しました。

2:作動状態記録装置などによる記録などに関する規定の整備

記録装置搭載義務 事故や車両の不具合があった場合の原因究明が行えるよう、自動運転車には作動時の記録ができる装置の搭載が義務化されます。つまり、作動状態の確認に必要な情報を正しく記録できない自動運転車の運転はできないということになります。その上で、警察官は運転者に対してその記録の提示を求めることができるとし、運転者には記録を保管する義務が発生します。

3:自動運行装置を使用して自動車を運転する場合の運転者の義務に関する規定の整備

自動運転車での通話 運転中の携帯電話、ナビなどの使用は禁止されていましたが、自動運行装置を使用して自動車を運転する場合、システムからの要請に即座に対応できる状況であれば使用しても良いことになりました。なお、スマートフォン操作やテレビ視聴と違いすぐに対応できない睡眠や飲酒、自動運行装置の付いていない車での携帯電話等の操作はこれまで通り違反の対象になり、今回の改正からいわゆる「ながら運転」についての罰則がより厳しいものになります

残された問題点

 国内の法整備が進む中、残された問題が国際的な法問題です。日本が批准しているジュネーブ道路交通条約では、主に欧州国間で締結されているウィーン道路交通条約に比べ自動運転システムに関する条約改正が遅れています。ジュネーブ道路交通条約は100か国以上の加盟国を持ち、自動運転車を世界的に普及させるにはこの条約の改正が欠かせません。改正に向けて議論は始められており、今後の動向が注目されます。

最後に

 政府は2020年をめどに一定の条件下で高速道路や過疎地での自動運転実現を目標とし、高速道路では緊急時に人が操作する「レベル3」、過疎地など限定された地域で無人移動サービスを提供する「レベル4」の実用化、東京オリンピックに合わせた自動運転サービス実施を目指しています。メーカーの車両開発も着実に進み、ホンダは2020年にもレベル3の車を実用化、トヨタ自動車では2020年前半にもレベル4を視野に入れた車を導入する予定です。実用化に向け環境が目まぐるしく変わる自動運転車の今後に期待したいものです。