今さら聞けない?自動ブレーキのイロイロ

 国連欧州経済委員会は、自動車の衝突を回避する「自動ブレーキシステム(AEBS)」の新車搭載義務化に日本や欧州を含む40か国・地域が合意したと発表し、2020年初頭にも運用を始めるようです。交通事故の発生防止、被害軽減を目的に国内メーカー各社ではすでに自動ブレーキシステムが搭載された車が続々と発売されています。すでに7割以上の新車に搭載されているとも言われていますが、その名称や機能はメーカーによって様々です。
そこで、今回は自動ブレーキの機能について、また自動ブレーキの義務化による効果と問題点についてお話したいと思います。

自動ブレーキの機能

一般的に自動ブレーキと呼ばれる機能は、次のようなものです。

1:カメラやミリ波レーダー等で前方の安全を警戒し、危険を感知すると音声で警告する
2:前方に車や人などが一定の距離まで近いて衝突の危険が高まると、自動でブレーキがかかり停車する

自動ブレーキの機能

 現在国内で提供されている自動ブレーキシステムは、メーカーによって危険の検知方法や検知する対象などが異なっています。次に、主要6メーカーの自動ブレーキ性能の違いをまとめましたのでご覧ください。

主な国産メーカーの衝突被害軽減ブレーキ性能比較
メーカーシステム名
搭載車例センサー警告方法
トヨタ トヨタセーフティーセンス
(プリクラッシュセーフティ)
アルファード
ヴェルファイア
ミリ波レーダー+単眼カメラ 警告灯+警告音
日産 インテリジェントエマージェンシーブレーキ リーフ 単眼カメラ 警告灯+警告音
ホンダ ホンダセンシング(CMBS) N-BOX
単眼カメラ+ミリ波レーダー 警告灯+警告音
マツダ i-ACTIVSENSE
(アドバンストSCBS、SBS)
CX-8 単眼カメラ+ミリ波レーダー 警告灯+警告音
スバル アイサイト
(プリクラッシュブレーキ)
レヴォーグ ステレオカメラ 警告灯+警告音
三菱 e-Assist
(衝突被害軽減ブレーキシステム)
エクリプスクロス 電波+レーザー+単眼カメラ 警告灯+警告音

次に、対象物の検知・作動速度などを比較します。

メーカー対車両
検知
対自転車
検知
対歩行者
検知(昼)
対歩行者
検知(夜)
作動速度
(対車両)
作動速度
(対歩行者)
トヨタ 約10~180km/h 約10~80km/h
日産 × × 約10~約80km/h 約10~約60km/h
ホンダ ×
※1 5km/h~上限なし
(前走車)
5~80km/h
マツダ × × 約4~約80km/h 約10~約80km/h
スバル 約1~160km/h 約1~80km/h超
三菱 × × 約5~180km/h※2 約5~65km/h

※1...環境によってシステムが作動しない場合がある。※2...ACC装着時。※自動ブレーキはすべて衝突被害を軽減するシステムで、状況によっては対象物検知に限界があります

 対車両検知、昼の歩行者検知は各社装備されていますが、自転車や夜の歩行者検知、作動する速度はメーカーによりまちまちとなっています。独立行政法人自動車事故対策機構では、2018年度の評価から夜間の対歩行者検知自動ブレーキテストを導入し、さらに衝突被害軽減ブレーキ性能の認定制度をはじめました。性能を比較されやすくなったことで、今後各社で開発が加速していくことが予想されます

自動ブレーキ車の効果

 すでに7割以上の新車に搭載されている自動ブレーキ車は、すでに交通事故やそれに付随する被害軽減の効果が表れ始めています。
 交通事故総合分析センターの分析では、衝突被害軽減ブレーキ(AEB)を搭載した車と未搭載の車を比較すると、届出車数10万台あたりの対四輪車追突死傷事故件数はAEB搭載車が未搭載車に比べて半減しており、事故率においても52.9%低くなっているという結果が発表されています。

AEB装置有無別事故件数

対四輪車追突死傷事故件数とAEB装置有無別登録・届出車数
AEB無AEB有
A:対四輪車追突死傷事故件数(第1当事者) 5,959 6,031 11,990
B:登録/届出車数 2,852,539 6,127,122 8,979,661
C:A/B×100,000
10万台あたり対四輪車追突死傷事故件数
208.9 98.4 133.5

 また、警視庁の発表では2017年の交通事故減少件数のうち約6割が追突事故で占めており、自動ブレーキ普及による効果が表れた結果となっています。自動ブレーキの義務化により、今後はさらなる事故減少効果が期待されます

自動ブレーキについて気になるギモン

国土交通省は2020年までに自動ブレーキの新車搭載率を9割にするという目標を掲げています。今後ますます自動ブレーキの普及が加速していく中、疑問点もいくつか考えられます。

1:非搭載車の扱い

 今乗っている車が自動ブレーキ未搭載で、義務化されてもこのまま乗り続けられるのか疑問に思う方もいるかもしれません。ですが、今回の義務化の対象は2020年以降に販売する新車とされているため、義務化された時点で未搭載車両に乗っていても問題は特にありません
自動ブレーキ未搭載車の対応 しかし、社員の安全運転を管理する上で、後付の安全装置を検討されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。現在は、車に後付できる踏み間違い事故防止「補助」装置も発売されています。

 但し、これらの装置は前方のカメラで衝突危険を感知した場合に警報音で知らせるものや、強くアクセルを踏み込んだ場合の急発進を抑制するもので、自動ブレーキがかかるものではありません。一部メーカーでは今後、後付自動ブレーキの開発も検討段階にあるとされていますが、明確な時期は発表されていません。
 そのため、自動ブレーキが搭載された自動車を発注する方が後付の安全装置よりもより安全だと言えます。とは言え、踏み間違い事故防止補助装置は、企業内での安全運転管理の一つとして取り急ぎの対応としては有効と言えるので、必要に応じて検討されるのも良いかもしれません。ただ気をつけて頂きたいのは、どのような安全装置や安全機器もあくまで安全運転を補助するためのものですので、ドライバー一人一人が安全運転の意識を持って運転することが大切だということです。

2:非搭載車の輸入

非搭載車の輸入 今回の自動ブレーキ義務化にはアメリカや中国など参入していない国もあり、今後自動ブレーキが義務化された際には国内において非搭載車の輸入・販売ができなくなる恐れがあります。役員車両などにおいて輸入車を導入されている企業様は今後、そのような点を踏まえながら国内および世界の動向にも注目していくことが必要でしょう。

最後に

 自動ブレーキの義務化により、今後ますます自動車の安全性が向上していくことは確かです。しかし、これらの機能は万能ではなく、センサーが感知せず上手く自動ブレーキが作動しなかったためにトラブルに繋がったというケースも過去に数多く発生しています。前述の通り、自動ブレーキはあくまでも運転を支援する機能の一つであるという認識を忘れず、ドライバーが過信することなく注意してハンドルを握ることが必要です。
 安全装置や安全機器は優秀なツールですので社員の安全を守るためには導入をおすすめしますが、事故を起こさないためにはドライバー一人一人が安全運転を意識できるように上司や安全運転管理者による動機づけや社員が安全運転できる環境の整備を行っていくことが何より重要です。